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「チーズのこえ」聞いて 北海道の酪農家ら出資 東京に専門店 元道庁職員の今野徹さん
日本農業新聞 1月20日(水)12時31分配信

「チーズのこえ」聞いて 北海道の酪農家ら出資 東京に専門店 元道庁職員の今野徹さん
「チーズそのものの品質の高さが道産の第一の魅力」という今野さん。北海道の形をした窓が店舗の目印となっている(東京都江東区で)
北海道でチーズを作る酪農家らが出資した、東京都内のチーズの専門店「チーズのこえ」が繁盛している。仕掛けたのは、道庁や出向先の農水省の職員として生産現場と深く携わってきた今野徹さん(39)。地域に根差した産品を消費者が長く買い支える仕組みをつくろうと、今野さんは「チーズを通して農業、農村の価値を消費者に伝えていきたい」と抱負を語る。

・商品と共に思いを発信 農村の価値伝える場に
「チーズのこえ」があるのは江東区の路地の一画。約10坪(33平方メートル)の店内には常時50~80種類の道産チーズが並び、工房や作り手を紹介するポストカードなども掲示した。昨年11月の開店以来、近隣住民を中心に客足が途絶えない店となった。
今野さんは札幌市出身で畜産系の大学を出て、道庁では酪農や農政を幅広く担当。生産から加工、販売・流通までを担う6次産業化の施策にも携わる中、「お涙ちょうだいの苦労話をして買ってもらう、そんな売り方は長くは続かないのではないか」と問題意識を強めたという。
農家がその土地で生産し続けるために、消費者に本当に伝えるべきことは何か、どう伝えるべきか――。考え抜いた今野さんが取った行動は「退職」。農水省に出向中の昨年5月、「生産現場と消費者をつなぐ役割を果たしたい」と辞表を提出した。
7月には道内各地のチーズ工房をめぐり、酪農家に「チーズのこえ」出店への出資を呼び掛けた。「どんな人が、どんな思いで牛や土、草に向き合っているのか、消費者に丁寧に説明すれば、長く買い続けてくれる関係を築けるはずだ」。そんな熱い思いを伝え、約30の工房から出資を取り付け、開店にこぎ着けた。
北海道洞爺湖町の酪農家出身で、チーズ製造を手掛ける塩野谷通さん(35)も出資者の一人だ。東日本大震災の被災者支援のため、今野さんと共にチーズのチャリティー販売などをしてきた間柄だ。「一般の食品スーパーの店員では説明できない生産現場のことも、今野さんなら伝えられると信頼している。消費者が何を求めているのかという情報も打ち返してくれるだろう」と期待する。
今野さんは「TPP(環太平洋連携協定)に勝てる酪農家が1戸いても意味がない。多様な酪農家がいてこそ地域社会が成り立つ。チーズはしゃべりはしないけれども、その背景にある守らなければならないものを“チーズのこえ”として伝えたい」と意義を強調する。(仁木隼人)